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スペシャルインタビュー

一般財団法人社会変革推進財団 インパクト・エコノミー・ラボ ナレッジ・デベロップメント・オフィサー 織田 聡×OVER20&Company.

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《2022年4月より、株式会社OVER20&Company.が主導するプレ社会⼈向け、パーソナル・ビジョンや⾃分軸の⾔語化をサポートする教育プログラム「any」。応援パートナーの一般財団法人社会変革推進財団 インパクト・エコノミー・ラボ ナレッジ・デベロップメント・オフィサー 織田聡氏に、日本のインパクト投資の現在地と今後求められるものについて聞いた》

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anyは、これからの時代に求められる「自分軸」の言語化をサポートする、次世代教育インフラサービスである。法人向けに実績を残してきたメンターサービス「MENTOR WORKOUT」監修のオリジナルカリキュラムを、プレ社会人限定に無料提供。社会人6.9人で1人の若者を教育する、民から始まる教育インフラ事業。

経済的価値と共有資本へのインパクト

—— SIIFのホームページで「経済的価値が重視された時代は終わ」ると言及されていますが、経済的価値以外にこれから求められるものとは何でしょうか

自然資本、信頼資本などの社会の共有資本です。例えば格差の是正や環境保全は、必ずしも経済的価値で測ることはできませんが、社会的価値を考慮した際には価値があると言え、投資の世界でもその必要性が高まってきています。既存の投資は「リスク」と「リターン」の二軸で捉えていましたが、そこに「社会および環境に対するインパクト」を加えて判断するものが、インパクト投資と呼ばれ、近年拡大傾向にあります。

厳密に言うとインパクト投資とは、『財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資』と定義されます。似た概念としてESG投資がありますが、ESG投資が企業の理念、姿勢を選定基準としているのに対し、インパクト投資は、「社会に具体的なインパクトをもたらす意図を持ち、成果評価することを前提とする事業」への投資を指します。

​図表1 インパクト投資とESG投資の概念整理

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インパクト投資の高まりと日・米・欧の特徴

—— イノベーション創出に向けて投資を続けるためにはどうしたらよいのでしょうか

SDGsやESGがバズワードになり、社会課題解決に対する投資気運が高まってきていることが大きな背景にあります。ただ一方で環境問題や人権問題に対する取り組みはヨーロッパ、特に北欧が進んでおり、それらに比べると日本は、5年ぐらい遅れているのではないでしょうか。

—— 日本でのインパクト投資残高の35%が上場企業ですが、かつてのように中小・未上場企業だけではなく社会全体で動き出したイメージがある一方、SDGsへの取組み姿勢やサステナビリティに対しての経営層の意識がまだまだ低いように感じますがどのようにお考えでしょうか

確かに上場企業でもインパクト事業を展開し始めた印象を受けます。社会課題解決の裾野が広がっているということでしょう。

一方で、やはり金融機関と事業法人の考え方には温度差を感じます。金融機関は政策動向に敏感なため、意識変革が進んでいる一方、事業法人ではどうでしょうか。CO2を多く排出する企業に対する社会的圧力は高まっているため対策を講じる企業は増加しましたが、カーボンニュートラルや環境問題以外では少し心もとなく感じます。

—— 欧米ではこれらへの取組が進んでいますが、欧米と、日本の差ができる要因はどこからくるのでしょうか

欧米では、消費者一人一人の考えと行動が成熟しています。例えばヨーロッパだと、エコフレンドリーな商品に対しては値段が多少高くても購入意向がある人が多いと言われています。こうした意識と行動を伴う個人が日本より多いからこそ、サステナブルな事業が成り立つのでしょう。

また、社会課題解決の担い手に関する考え方は、アメリカやイギリスに代表されるアングロサクソンと北欧、あるいは大陸ヨーロッパで三者三様です。アングロサクソン的考えの元では、政府の役割を最小限に考える国民性から、社会課題解決の担い手は民間企業やプライベートセクターを中心に考えられます。こうした背景からインパクト投資はアングロサクソンの風土から出てきたと考えられます。いわば、資本市場を通じた社会課題解決、あるいは社会課題解決の民営化です。

一方で、大陸ヨーロッパ・北欧は社会課題解決の担い手は政府の介入が必要だと考えます。これらの違いから、インパクト投資残高はアメリカやイギリスで非常に多く、大陸ヨーロッパと北欧はそれに続くポジションです。日本は周回遅れなので投資残高はまだ少ないですが、国の性格としてはアングロサクソンと大陸ヨーロッパの間に位置するものと考えられます。日本では今後、政府が担う部分とプライベートセクターが担う部分の境界をより明確にしていく必要があるでしょう。

—— ヨーロッパの方で進んでいる経営やESGの事例について教えてください

オランダにトリオドス銀行(Triodos Bank)というインパクト志向の金融グループがあります。社会・環境・文化においてポジティブな変化を起こすための金融を実現する目的で、1980年に設立されました。2021年末現在、グループ全体で運用資産総額€242億 (€=\145として約3兆5000億円)を擁しています[1]

そしてこの銀行傘下のTriodos Investment Managementが2014年に組成した”Triodos Food Transition Europe Fund” というファンドでは、より環境にやさしく社会的にレジリエント(復元力ある)食料生産流通システムの実現に向け、主に

・オーガニック食品企業

・動物性から植物性の代替たんぱく質へのシフトなど、持続可能な食生活を推進する企業

・サプライチェーンの透明性を向上させるフェアトレード関連企業

・フードロスや包装廃棄物の削減を推進する企業

に投資を行っています。

[1] “Integrated Annual Report 2021”https://www.annual-report-triodos.com/2021/

 

進まない人的資本への投資の課題感

—— カーボンニュートラルや環境に関するSDGsへの取組み・サステナビリティは、数値で示す客観性から広まったように感じますが、一方でサステナビリティの中心は今後「人的資本への投資」だと言われています。ここに対する企業の取組みはいかがでしょうか

例えばわかりやすい例として、女性管理職比率や多様性の課題があります。日本でこれらが諸外国に比して進まない理由は、極論を言うと、進めなくても困らないからでしょう。先述の欧米との違いではないですが、進めないことによる消費者から不買運動が行われるわけでもなければ業績に大きく影響することも少ない。だから思うように進まないのだと思います。

 

 

—— 一方でZ世代の多くが、日本企業のSDGsへの取組みを「本質的ではない」と考えています。今後ますます高まることが予想されるこれらの機運に対してアンテナを高く張り、次世代・若者から選ばれるための組織づくりの一要素として、企業が注力するメリットがあると思いますが、いかがでしょうか。

我々としても、そのように考えています。近年の大学生はインターン参加を通して企業の実態を見ており、就職の段階である種のまやかし的なSDGsやESGを行う企業を見抜きます。このように労働市場を通じた学生からの選好が進むと、企業は本腰を入れてアプローチするメリットを十分に感じられるでしょう。

加えて、消費者の意思決定にも影響を及ぼせると、企業としてもメリットを十分に感じられるでしょう。一方で、日本人の場合は、サステナブルな商品だからと言って高い価格の商品を購入する傾向はまだまだ低いと言わざるをえません。SDGsにしてもESG、インパクト投資にしてもキーワードは「利他心」です。もちろん、最低限の財務リターンは必要ですが、投資家としても消費者としても「利他心」がないと良い社会を作れません。消費者が個人レベルでしっかりとSDGsやサステナビリティを考えることで、企業も本腰を入れるのではないでしょうか。

​図表2 日本企業のSDGsへの取組に対するZ世代データ

※any生・弊社クライアント20代計128名から収集したデータ

 

—— その他にメリットはありますか?

この10月にSIIFが発表した 「インパクト投資消費者意識調査2022」を見ると、株式投資など、投資経験のある20・30代は、他世代に比してインパクト投資商品を扱う金融機関との取引に前向きであることが分かります。付き合う金融機関を選定する上でも20・30代は、どれだけサステナブルな観点を持った企業なのかを判断材料にしているということです。

 

​図表3 インパクト投資商品を扱う金融機関への選好度

銀行、証券会社などの金融機関がインパクト投資商品を扱っていると知った場合、あなたはその金融機関と新たに取引を始めたい(または拡大したい)と思います。あなたのお考えに最も近いものを一つ選んでください。

anyについて

—— ありがとうございます。では最後に、anyの取組について、どのように感じられますでしょうか。anyは、次世代人的資本への投資として、プレ社会人がビジョンや軸を持つ、そしてその言語化をサポートする教育プログラムを提供しています。彼らが成長した時に、ともにその成長を共有できる社会を共創するのが個人共創パートナー・法人共創パートナーです。社会全体で「リーディング・フロム・ビハインド」の精神を持った社会を創り享受することで、彼らが社会に出た際に「利他の心」が生まれると考えています

素晴らしいですね。ぜひ進めて頂きたいと思います。一企業として志の高さを感じます。anyは社会におけるそのマッチングの促進、ミスマッチの解消と早期離職の低減、士気の向上にも非常に大きく役に立てると感じます。また学生から見ても、こんなはずじゃなかったという、失望やギャップのような自己の失望を防ぐ役割も果たせます。企業・学生両方にとって良いことだと思います。

 

次世代へのメッセージ

日本の経済は20年近く賃金も上がらず、社会情勢を見ると、環境はどんどん深刻化しており、働く人の権利も侵害されてきています。ただ、優秀な人材の主張は企業側も採用します。つまり、実力をつけることが大切になるので、企業を促せる実力を身につけてほしいと思います。それが、20代の人に切にお願いしたいことです。様々な道があると思います。もちろん全員が全員第一人者になれるとは限りませんが、それでも第一人者になるんだという強い気概を持ち、何事にも強いマインドを持って臨んで欲しいと思います。知名度のある企業に入社すればよいのではなく、自分自身が社会にインパクトを与える存在になるという気概をもって欲しいですね。企業のビジョンに共鳴することも大事ですが、一方で自分自身がビジョンを持ち壮大な大風呂敷を広げてみてください。荒削りでもいいので、どんどん大きなものを頭の中で広げてほしいと思います。

そして一方では、目の前のことを絶対化、自己目的化しないで常に相対化することを意識してみることが大事です。例えば、SIIFはインパクト投資を主たる事業ドメインにしていますが、社会課題解決のためにインパクト投資以外にも有効な手段があれば、そちらにも注力することになるでしょう。視点を常に自分の今いる位置から一段二段上げて、そもそも自分がやろうとしていることは他の手段ではできないのかと相対化して考えるマインドセットが重要です。

もうひとつは、読書や人の話を聞く際には、何が取り上げられてないのかを考えることです。何に言及されていないかを知るためには、仮説が必要です。本を読んだり講演を聴いたりする際に、「あの人、実はこの点には言及しなかったな」と。そうした心構えで本を読んだり、講演を聴いて講演者に質問すると、いろんな知見を引き出せると思います。だから「相手は何に触れてないのか?」を知る能力はぜひ養って欲しいなと思います。

 

プロフィール

一般財団法人社会変革推進財団[1]

『社会課題解決と多様な価値創造が自律的・持続的に起こる社会の礎をつくる』ことを目的に、2017年に創設された組織。インパクト投資の事業モデルの創出と市場規模拡大を目指している。

[1] https://www.siif.or.jp/

織田聡

鉄鋼メーカー、戦略コンサルティングファーム、IT企業等を経て2019年にSIIFに参画。インパクト投資やインパクト・マネジメントの現場から生まれる実践知を体系化し、新たな知識を創造することが目下の重要課題。ソーシャル・イノベーションにより日本を社会課題解決先進国にすることを志している。経営学修士(MBA)。