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スペシャルインタビュー

一橋大学イノベーション研究センター長 青島矢一×OVER20&Company.

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《2022年4月より、株式会社OVER20&Company.が主導する次世代教育インフラを目指した教育サービス「any」。同社CEOの糸井が、応援パートナーの一橋大学イノベーション研究センター長の青島矢一氏に、イノベーション創出に求められる組織と個人、DX化が進んだ後の教育について聞いた》

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anyは、これからの時代に求められる「自分軸」の言語化をサポートする、次世代教育インフラサービスである。法人向けに実績を残してきたメンターサービス「MENTOR WORKOUT」監修のオリジナルカリキュラムを、プレ社会人限定に無料提供。社会人6.9人で1人の若者を教育する、民から始まる教育インフラ事業。

イノベーションを阻む説明責任

—— 青島教授の研究されている「イノベーション」とは、どういったものなのでしょうか

イノベーションとは社会に対して経済価値や心理的に豊かになるといった価値など、社会に何らかの価値をもたらす革新を言います。そのため、ただ新しいアイデアが生まれる「インベンション」は、イノベーションではありません。実際に製品・サービスという形で具現化され、社会に普及して初めて事後的に「イノベーション」になりえます。

—— その中でも、大企業とスタートアップのコラボレーションという側面からイノベーションについて研究されていますが、その背景についてお聞かせください

 

はい。日本の大企業には「ヒト・カネ・技術」が蓄積されており、かつてはそれらが企業内部で結合しイノベーションを起こすことで成長してきましたが、近年はその数が減少しています。そこで、日本型の新しいビジネスや産業を興す方法として、大手企業とスタートアップのコラボレーションが重要だと考え、当領域の研究を行っています。内部でのイノベーションが難しくなっているとしたら、会社内のリソースを外部提供し、それを革新を起こす人に繋げることが必要だと考え、研究を行っています。

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—— かつては大企業の中でイノベーションが生まれていましたが、近年ではそれが難しくなっているということでしょうか

はい。近年イノベーションが起こりづらくなった理由は様々ありますが、1つは、継続的な投資が難しくなったことです。たとえ革新を起こす人がいても、そこに「ヒト・モノ・カネ・技術」という資源が継続的に投入されないとイノベーションは生まれません。しかし、将来価値や経済性が不透明なイノベーションに資源を投入する意義を社内の経営陣に対して説明することは簡単ではありません。特に近年、企業に対する資本市場からの圧力が厳しくなり、意思決定の合理性や説明責任が求められる経営陣が、不確実性の高い投資に踏み切れなくなってきたことが1つ考えられます。

—— 株主からの圧力は一昔前から強まっている?

はい。コーポレートガバナンスコードが厳しくなり、説明責任の対象範囲が拡がっています。一方でイノベーションは、組織内に「遊び」を上手く残せないと生み出しにくいものなのですが、透明性、アカウンタビリティ、説明責任などと追求されると、その遊びの部分を理解してもらうのは難しいかもしれません。

創造的正当化による、イノベーション創出

—— では、イノベーション創出に向けて投資を続けるためにはどうしたらよいのでしょうか

イノベーション活動の意義や理由を多角的に創り上げることが重要です。これを「創造的正当化」のプロセスと呼んでいます。たとえば、経済的価値はすぐにはみえなくても、社会に対するインパクトの大きさを説くことができます。近年話題のSDGsやESGは、こうした創造的正当化を後押しするという意味で、イノベーションにとって追い風になると思います。

また、投資家や支援者も人間なので、ものすごく熱く想いを語られると、「これならいいかも」と思う気持ちになるかもしれません。そういう想いや志、覚悟がイノベーションのためには非常に重要です。

世の中のトレンドに乗ることも重要です。必ずしも論理的な説明が難しい活動であっても、例えばカーボンニュートラルとか少子化対策のように、世の中のトレンドに沿っていれば、「この方向性は正しそう」と支援者に思わせることができます。

さらに、小さくても「客が求めている」もしくは「市場がある」ことを示すこともイノベーションの活動を継続するには重要です。たとえば、大企業の社員がクラウドファンディングを募集することがありますが、それは、目標金額に達成することで市場の存在を証明でき、社内的に活動を正当化するという意義があります。

経済合理性だけで説得できない活動を正当化することがイノベーションを創出しようとする大企業では求められます。

—— イノベーター個人だけでなく、企業や経営陣にとっても「創造的正当化」という考えは重要でしょうか

そうですね。企業の成長ストーリーを投資家に説得するという点では似ていると思います。たとえば、ソニーは、保険事業やファイナンス事業を持つことによって投資家からコングロマリットディスカウントを受けてきましたが、エレクトロニクスからファイナンスにいたる事業全体を含めた成長ストーリーを示すことで、結果を残し、株価も上昇しました。

富士フイルムも、フイルム主体の会社からライフサイエンス事業を含むように大きく事業構造を変えることに成功しました。自社の成長ビジョンを中核的な技術領域と結びつけてうまくストーリーをつくることができたことがあったと思います。だから一見関係なさそうな化粧品事業に参入しても投資家から必ずしも否定的な評価を受けることがなかったのだと思います。

このように、大企業がイノベーションを起こすためには、長期的な発展シナリオを魅力あるストーリーやビジョンに落とし込むことが重要です。

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—— ストーリー作りがうまい企業とそうでない企業は何が違うのでしょうか。保守的な経営者が多く、団塊の世代が大株主であり、一方で社内を見ると団塊ジュニアが管理職者層になる会社も多く、経営者が板挟みに合い、抜本的な改革を行う胆力がない経営者も多いように映ります

そうですよね。投資家からも社内の経営層からも板挟みで大変だと思います。さらにSDGsへの対応など、昔に比べると達成すべき目的も複雑化しています。ただ儲けるだけではなく、不確実性の高いイノベーションにもチャレンジする。一方で社会的価値は毀損してはダメ。そして四半期ごとに報告を求められて、と大変です。

イノベーションを起こす人には強い想いがありますから、睡眠時間を削ってでも仕事をしたいのだと思います。でも、今の時代、それは労基違反になりかねない。たしかに、社会の価値を毀損してはいけないとか、雇用者の労働環境を守らないといけないとか、各立場から考えれば正しいことです。ただ、企業が長期的に成長するためには不確実性の高いものにチャレンジしなければなりません。これらが、相互に矛盾しがちなところにイノベーションの難しさがあります。

しかし、社会性と経済性は両立します。渋沢栄一の「論後と算盤」はそういうことですよね。一見矛盾するけれども、それをなんとか矛盾を解いていくというのが経営者の腕の見せ所だと思います。イノベーションと合理的な経営も矛盾する面もありますが、これを両立させて初めて会社は成長します。

イノベーターに求められる個人軸とanyの果たす役割

—— イノベーションを作るためには組織と個人の課題があり、ここまでは組織のお話を伺いました。イノベーターに求められる素質には何があるのでしょうか

イノベーターに求められるものは、やはり内発的に動機づけられていて、軸がしっかりしていることです。やることに対して強いコミットメントがないと正直やってられないです。新しいことをするときは、必ず多くの批判を受けます。「お前何やってるんだ」という風に。人に言われて行動していたら「なんで俺こんなことやってるんだ」となる人が大半です。一方で自分が目的を持って行うのであれば多少の批判は受けざるを得ないと覚悟できます。なので、自分の行う行動に対してどれだけ覚悟を持ってやれるか、コミットメントできるかが重要です。もしくは、自分の行っていることを心から楽しめる人。誰が何を言おうが俺はこれを好きでやってるんだと思える人はイノベーターに向いています。

 

 

—— 大学生に視点を移すと、青島教授が講義を行うなかで、内発的動機付けのある・ないなど、学生に感じるものはありますか

最近の学生は、やるとすごい能力は高いのですが、自分から何か主体的にアクションを起こす人は少ないという印象です。保守的な学生が増えたのかもしれません。バブルの頃は何をやっても盛り上がっており、リスクが少ない時代だったので、自分からどんどん行動する人が多かったですが、好景気を知らない世代は、デフレ期で地震やリーマンショック、コロナといったネガティブなイベントが多く、企業も人も守りに入った印象を受けます。

もう一つの特徴として、ガンガンお金を儲けてやろうという人は減ったかもしれませんが、一方で、社会的に貢献したい、皆が喜ぶ顔が見たい、など社会性に目を向ける人が増加しているように思います。

 

 

—— ゆとり世代は、例えば運動会で勝負をつけないなどの背景から競争心・主体性が育まれづらい印象です

そうかもしれません。例えばスパイバーと言うベンチャー企業は、人口の蜘蛛の糸を活用した会社で、経営陣は慶応幼稚舎からエスカレーター式で慶応義塾大学に進学した背景を持ちます。高校・大学受験がなく、ゆとりの時間が多くあるので物事の本質を考えるようになったと経営陣の1人は話していました。自由度が高くゆとりをもてると、自分の好きなこと・嫌いなこと、人生について本質的に考える人もいれば、逆に競争がないからただサボってしまう人もいて、この世代は二極化が進んでるように感じます。彼らのように本質的な思考ができる環境や人が周りにあると良いですが、そうでない人にはある程度レールがあった方がいいのかもしれません。

 

 

—— 20代と面談する中で、自分の好き・嫌い、自分どういう人間で、何にワクワクするのか、目標を語れる人が非常に少ない印象です

 

そうですね。かつては就職活動がそういう機会になっていましたが、最近は内定を得るためのテクニカルなものになっています。本当は第一志望じゃないけれど、「御社が第一志望です」と言わないと採用してもらえないとか、就職氷河期以降にそういう風潮が広まったように感じます。そうすると、どうしたら内定を得られるか、選考を通過できるかということばかりを考えるようになり、毎回自分を偽るようになりかねません。そういう意味で、自分を本質的に考える機会を失ってしまっていると思います。

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—— anyは同世代のバックグラウンドの異なる人たちが集まってディスカッションしてその上で社会人メンターと一対一で自分の人間性や在りたい姿を考えます。そして最後にグループで集まり共有することで多様性の社会で生きていくことを考えるプログラムを提供していますが、anyはこれからの時代、求められると思いますか?

 

宣伝に加担しているみたいになりますが、必要だと思います。一般論として自分自身がどうやって生きていくかとか何を目的に思っているのかは重要です。それをきちんと作り上げるプロセスだと思います。こういったことは本来、大学でできたほうがいいと思うのですが、それを支援することは必要だと思います。

 

 

—— とはいえこういった機会を活用して今後に活かせる方っていうのは少ないのではないか、とよく反論をいただく。大きく変化するのは少ないかもしれないが、こうしたきっかけを作る、そしてこういった場所があるということを認知拡大することが大きなインパクトになると考えていますが、どう思いますか

 

いいことですよね。何もしなければ変わるのは20人に1人もいないかもしれませんが、その割合が増えるので。もともと、自分自身は何者なのか、ということを高校時代とかに考えている人は多いと思います。ただ、それを最後まで考えきる機会がなく大学生活を送って、惰性で社会人になる人も多いわけです。そうした人の一部でも、最後まで考えきり、当面はこうだ、5年・10年はこれをやっていくんだと決められるようになるのは、大きなこと。全員がイノベーターになる必要はないので。一人でも増えたら大きなことです。

 

 

—— anyはインパクト投資家、CSR、サステナビリティなど、経済活動と社会の調和が求められる中で、企業様にスポンサードいただくことで学生が無料で受けられる形をとっています。anyに投資することで、企業にはどのような便益があるのでしょうか

 

企業の便益は大きく二つあります。CSR としてやるとなると、実はこの活動に以前からスポンサーをしています、というレピュテーション、つまり評判を得られること。もう一つが、anyに関わりがあるかどうかで、優秀な人材へのアクセスが変わってくること。これは大きいですよね。すぐに採用とはならないと思いますが、これだけ人材が不足し、良い人材が欲しい会社が多い中でいい接点を作れると思います。会社側も、若者が集まるところで得られる刺激は非常に大きいはずです。

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DX後の次世代教育は、「熱」を受け渡しできる対面コミュニケーションがより重要に

—— 最後に、これから求められる教育のあり方についてお伺いします。青島教授はこれから求められる教育はどのようなものだと思いますか

画一的な教育は、動画コンテンツに置き換えればよいと考えています。コンテンツを吸収するだけであれば、世の中で一番うまい人に教えてもらうのが最も効率が良いので、あえて各学校で講師を持つ必要はないと思います。一方で重要性を増すのが、対面での接点がないとできないことです。例えば道徳的な問題や志、心構え、軸、覚悟とか。そういったものは言われて勉強して備わるものではありません。目の前に人がいて、その人の表情を見てその人の行動を見て、自分が変わるわけです。こういったものは教育として残っていきます。

今後は、動画コンテンツと対面で2分化していくのではないでしょうか。個人の能力や学習の進捗をデータ化し、個人に紐づけたコンテンツ提供をウェブ上で行えると良いですよね。ただこういった形で教育がデジタル化されても、学生の思いを受けるという意味でも、対面の必要性は残ると思います。

また、動画配信だけだと、事前に用意したことのやり取りしか発生しないのですが、対面で直接やり取りをしていると、事前には計画していないような発見が生まれます。オンラインではこうした偶発的に生まれる創造活動は難しいと思います。対面での研究は残ると思うし、コミュニケーションの中から新しいものが生まれるという、創造的活動に投資していくのが良いのではないかと思います。

プロフィール

青島矢一

1987年一橋大学商学部卒業。1989年同大学大学院商学研究科修士課程修了。1996年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院博士課程修了。Ph.D.(経営学)取得。一橋大学産業経営研究所専任講師を経て、1999年一橋大学イノベーション研究センター助教授、2007年同准教授、2012年教授を経て、2018年より現職。専門はイノベーションのマネジメント

糸井達哉

一橋大学卒業後、独立行政法人都市再生機構に入構。その後、25歳で株式会社OVER20&Company.にキャリアチェンジし、若手人材の可能性を最大化する社会創りへの挑戦が始まる。20代に特化した成長支援サービスを丸亀製麵に提供し、自身もJリーガーに面談を提供する。