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人的資本経営における
​エンゲージメントの
高め方と対話

株式会社和田経営人事研究所 代表取締役
和田 彰

2022年6月1日に開始した、社会人6.9人で1人の若者を支えられる時代の日本の未来共創プロジェクト「any」。共創パートナーの和田彰氏に、プロジェクト・エニーへの参画理由について聞きました。

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和田 彰

株式会社和田経営人事研究所、代表取締役。「働きがい」に関する調査を世界約100か国で展開するGPTW(Great Place to Work®)ジャパン元代表。日系メーカー、米系コンサルティングファーム、リクルートマネジメントソリューションズ等にて、一貫して従業員の視点を重視した人事制度設計や組織開発、およびコンサルテーションを推進。その後独立し、株式会社和田経営人事研究所を起業。

若手人材で作り上げる新しくも挑戦的なモデルに共感

—— anyに参加した理由について教えてください

若手人材の活躍に繋がる意義ある事業だと考え参画しました。若手人材の成長機会としては、シニア人材が若い人向けにコーチングを提供するサービスは多くあり、コーチング自体にも興味はあるのですが、個人的には私のようなおじさんからのアドバイスなんて響くのか、と感じるところがありました。コーチングといえど、昔の自慢話や成功体験から「これはこうだ」と考えを押しつけられることも少なくなく、そんな時代でもないだろうと感じています。anyはそれらが介在しづらく、またサービスを活用する大学生から報酬を得ない新しくも挑戦的なモデルだったことも要因です。anyのようなモデルがこれからは求められるのではないかと考え、興味を持ちました。

「誇り」から「尊重」の時代へ

—— 和田様は人事制度設計や組織開発等に関連するコンサルティングを専門とされていますが、近年の人的資本経営の重要性について、どのように考えられていますか

『日本でいちばん働きがいのある会社(和田彰,2010)』でもすでに「競争優位」の源泉が「人」であることに言及しており、それは今も変わりません。提供する製品やサービスのみが競争優位を築く源泉ではなく、それらを提供する従業員一人一人の知的能力やエンゲージメント、マネジメント能力、暗黙知などのケイパビリティやそれらを維持発展させる方法論こそが、差別化を図るものであり、競合他社では模倣しづらい独自の強みとなります。会社独自のビジネスモデルやパーパス、ビジョン、コアバリューと密接に結びついたものであればあるほど、成功事例を他社がコピーしたところで同様の成果は得られにくいという意味で、模倣困難性が高く、それ故に競争優位の源泉になっていると言えるでしょう。そしてこれらの人的資本を高めるために、関連が深いものの一つが従業員にとっての「エンゲージメント」です。

—— エンゲージメントを考えるうえで、「昔」と「今」を比較すると企業を取り巻く環境はどのように変化していますか

 

かつては「誇り」が、そして今は「尊重」がキーになっているように感じます。

バブル期やそれ以前に関しては、従業員は「誇り」をもって働いている様子を先輩社員から感じました。これが今でいうエンゲージメントや会社に対する帰属意識だと考えています。

高度経済成長期は会社の戦略としての指標が明快で、ある種のパターンがありました。製品のシェアを高め、競合他社に勝つためにチームが一体になることが戦略となり、市場規模が増加する時代背景からも、従業員の努力が会社の利益と自身への昇進・キャリアへの還元に結び付きやすい時代でした。そのため従業員も「誇り」を感じやすい時代だったと言えます。

そこからバブルがはじけ、失われた30年、VUCAの時代に突入し、市場の境界が曖昧になり競合が見えづらくなりました。明確なベンチマークがなくなる中で、企業も様々な戦略を模索している段階です。自社の勝ち筋は自社で決めていく、企業の持つ在りたい姿から考える必要が出てきているのが現代です。一方で、日本経済は停滞し、個々人は働く「誇り」を感じづらい時代といえるでしょう。

—— 時代変化に伴い、エンゲージメントの定義や組織として取り組む方向性はどのように変化しましたか

「エンゲージメント」や、それに類するワード、例えば「コミットメント」「ロイヤリティ」「従業員満足」などには様々な論者が様々に定義をしていますが、ここでは私が奉職していたGPTW、「働きがい」の定義としてご紹介すると、構成する5つの要素があります。「信用・尊重・公正・誇り・連帯感」です。

先述の通り、かつての日本企業では「誇り」の占めるウェイトが大きかったのですが、今は個々人が会社や仕事に求める意義が多様化しているため、「尊重」が以前より重視されるように変化してきています。成長させてくれる、機会が多い、休みやすいなど様々です。

この中でも「衛生要因」と考えられるもの、例えば働きやすさはフレックスタイムや時短手当、自己啓発奨励金などを導入することでハード面を整えられますので模倣が容易と言えるでしょう。一方で、「動機づけ要因」は先述の通り成功事例に倣うことは難しいのです。かつては飲み会も残業もみんなで行うことで連帯感が高まりやすかったのですが、今はテレワークや飲み会の減少でコミュニケーションを図る機会が失われているため、一層難しくなっています。

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変化するキャリア面談の在り方と、高まる言語化能力の重要性

—— 「動機づけ」を行う上では「対話」がポイントになると感じますが、対話の重要性をどのように捉えていますか

一概にお話しすることは難しいですが、1on1などのコミュニケーションは大切です。会社や仕事に対する部下の考え方やバックグラウンドは多様であり、こうしたコミュニケーションは基本的には1対1の関係性の中で行われますので。そして1on1のみならず、組織としての承認も大切です。従業員個々人の意見・提言を受け止めて変化することでの承認です。改善提案などを受けた場合は、組織としての対応が求められ、それらの対応が個々人の動機づけに繋がりエンゲージメントが向上します。

—— 現行のキャリア面談は、一般的には所属する会社内でのキャリアステップを考える機会として設けられています。しかし今や1つの会社に留まることが当たり前ではない時代であり、転職を常に選択肢として持つ従業員が多い時代。ただ一方で長期的なキャリアビジョンを言語化し、そこから逆算し今の会社で歩みたいキャリアを話せる人は少ないように感じます。またそうした話ができる「心理的安全性」がないように感じます。そこで、これからのキャリア面談の形としては、部下の長期的なキャリアビジョンの解像度を高め、ビジョンに沿った形で今の会社で何ができるかを共に考える機会とすることが求められているのではないでしょうか。

それが実現するとエンゲージメントは上がりますね。個々人の在り方を考える機会を企業が用意すべきかどうかという問いはありますが、エンゲージメントが高い会社は制度として運用するかどうかはさておき、そうした機会の重要性を理解しています。個人の在りたい姿を抜きにエンゲージメントが高まらないことを分かっているのです。逆に個人の価値観やビジョンに関心が薄い会社は、運動会や飲み会など従業員が集まる場所や機会、全員を対象にした教育訓練や福利厚生等の制度を作ればそれでよいと考えているように見えます。コンサルティングファームのように、従業員のキャリアを考える機会を提供し、個人と会社の方向性をマッチさせることができればかなりの競争優位になると思います。

—— 同時に、面談を受ける側は自身の価値観や在りたい姿、キャリアビジョンを言語化する重要性が増すように感じますが、言語化能力の重要性について、どのように考えていますか。また、和田様の時代に比べてどのように感じますか

必要だと思います。これまではキャリアが単純で会社任せでした。会社から「あっちいけ」と言われたので「異動した」みたいな。「なんで就職したの?」「地元で一番大きかったからだよ」。あまり考えなくても成立していました。しかし今はそれを自分で探さないといけないですし、そのキャリアをストーリーとして他社や所属企業、パートナー等に提示し納得してもらわないとなりません。そのプレッシャーがあると思います。

—— かつてのキャリアは受動的でしたが、現代では自分でキャリアチェンジという選択肢を取っている方が多いので、軸を自分自身で語れる必要性があるということですね

そうですね。そうしたスキルが重要な人たちが顕在化してきたということです。

ただここで気を付けたいことは、一方ではそうしたスキルを必要としない人も多数いるということです。トップダウンが楽で、自分の性に合っている人もいるため、すべての人にとって重要なスキルではありません。「個人の市場価値を上げなければいけない」や「Visionを持て」といわれますが、それらに縛られすぎるのではなく、まずは各人が自身の価値観を知ることが重要です。

一つの会社で必ずしも100%の多様性がある必要はないと思います。「うちの会社は体育会系の会社だよ」、「トップダウンの社風だよ」という会社があって、そこに合う価値観を持った個人が入社できれば、それはハッピーですよね。

Extra.逆質問

—— (和田)私個人も明確にキャリアとしての王道、勝ち筋があるわけではなく、常に悩み、ふらつき、考えている状態です。そうなると、20代の皆さんはさらに不安を感じていると思いますが、anyでは大学生を対象にどのように考える機会を提供しているのでしょうか

(糸井)おっしゃる通り、どの世代も悩んでいる問題であり、私たち20代も例外ではありません。終身雇用が崩壊する、ジョブ型採用が始まる、年金がもらえるのかもわからずいつまで働かなければならないかもわからない中で就職活動し、いざ入社してみると社内はまだまだ年功序列のままでキャリアの考え方が全く異なる上司との面談。何が正しいかわからない中でSNSでは個々人がビジョンを持たないといけないと吹聴され、自身の市場価値を高めなければいけないと不安・焦燥感が強い世代です。

その中で私たちの考えとしては、環境は変化していきますが、個々人の感情や価値観、在りたい姿は変わりづらいものだということです。そしてそうした「自分軸」が考えや決断のよりどころになると考えています。どういう環境にいるときに居心地の良さ・悪さを感じるのか、5年後・10年後はどんなこと・生活をしていたいのかを言語化することで見えるものがあります。価値観を言語化することは、メンタルヘルスダウンの予防にも役立ちますし、原因追及・改善策も考えやすくなります。anyでは、価値観や個人軸、パーソナル・ビジョンを考える機会を提供し、言語化をサポートしています。anyの対象は大学生ですが、社会人ではない期間だからこそ、自身の感情に素直に向き合える貴重な時期だと考え、anyを提供しています。

—— (和田)非常に良いアプローチですね。これまでのキャリアでも、個人の性格特性や知的基礎能力、価値観等を測定するSPI等の適性検査、組織のエンゲージメント、働きがい、従業員満足度等を測定する組織診断の運営に携わっていました。企業は受検者の性格特性等の適性を知ることでよりよい採用活動を、またマネジメントに生かせます。性格特性は変わりづらく、その特性をその企業で生かせる場があるのかを踏まえての採用、入社後の配置・配属、業務上あるいはキャリア形成等の指導をされたほうがよいと個人的には考えています。また、就職する側としても、anyのような対話、適性検査などで自分自身をより深く知ったうえで職種選択や就職活動を行うことがより重要になってきていると思います。かつては業界大手に入れば幸せという原理が機能しやすい時代でしたが、今はそうではありません。どういうキャリアを描き、どういう職業を選択し、どこに入社すると幸せなのかを悩んでいる人が増えているように思います。

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