いろいろな「ものさし」の中で、常に前向きな姿勢で臨む(マブチモーター欧州総代表 阿部一博様)
- OVER20&Company メンバー

- 1 日前
- 読了時間: 7分

阿部一博氏のプロフィール
マブチモーター欧州総代表。1964年生まれ。大学卒業後、旧東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。約30年間、国内外でコーポレートファイナンス、審査、日系・非日系企業の海外取引等に従事。2018年より、自動車電装機器用モーターで世界シェアNo.1のマブチモーターへ転職。管理本部参事、経営企画部長を経て、2021年にマブチモーターヨーロッパの社長に就任。現在はグループ執行役員欧州総代表としてドイツ・フランクフルトを拠点に、欧州事業のマネジメントを担う。2022年より、PROJECT anyの個人エニーメイトとして協賛・参画。
「他人のものさし、自分のものさし」——異なる前提の中で仕事を進めるということ
―ご経歴を拝見すると、タイ・フィリピン・パキスタン・ポーランド・ドイツなど様々な文化圏での駐在歴が長いことが印象的です。海外で活躍するために意識したことはございますか
海外で仕事をする際に最も大切にしてきたことのひとつは、「ものさしが違う」という前提を意識してコミュニケーションをとることです。どの国もそれぞれ独自の慣習や文化があり、日本とは異なる点が多いので、日本では当たり前だと思っていることが、そのまま通用しない場面は多くあります。
例えばドイツでは、労働者保護の意識が非常に強いため、人事施策を講じる際には細心の注意が必要です。他国であれば問題なく進められることでも、ドイツでは慎重な手続きや手順が求められ、簡単に進められないことも少なくありません。
―そうした環境の違いは、意思決定にも大きな影響がありそうですね
はい、その通りです。だからこそ、単純に「こうしたい」という気持ちだけでは前に進めません。相手の前提や背景、各国の法制度を理解した上で、「その国において適切な進め方は何か」を考える必要があります。
私が大切にしている相田みつをさんの言葉に、
他人のものさし 自分のものさし それぞれ寸法が ちがうんだな
という詩の一篇があります。
各国の慣習や文化を尊重しコミュニケーションをとることの重要性をお話ししましたが、これは必ずしも海外だからといって意識していることではありません。日本人同士であっても「ものさし」は異なります。相手の考え方や価値観が、自分と同じだと思い込んで仕事をすると上手くいかないことが多々あります。だからこそ「ものさしが違う」という前提に立って相手を理解しようとする姿勢が、良い関係を築く上で重要だと感じています。
これらの感覚は、日々の仕事の中で同僚や部下に限らず、取引先や地域コミュニティの方々と接する中でもこの言葉の大切さを実感します。『他人のものさし 自分のものさし それぞれ寸法が ちがうんだな』と柔軟に考えれば、気持ちも楽になるし、解決策が見えてくることもあります。言うは易く行うは難しですが、仕事だけではなくプライベートでもいろいろな方々と様々な形でコミュニケーションをとったり、普段からその国のニュースや法律・制度に触れ、「他人のものさし」への理解は深まっていくものだと思っています。
苦しみや悲しみも、自分をつくる「肥料」になる
―長い海外生活を支えるもう一つの言葉があると伺いました
これも相田みつをさんの言葉ですが、
あのときの あの苦しみも あのときの あの悲しみも みんな肥料になったんだなあ じぶんが自分に なるための
という詩があります。
人生の中では、思うようにいかない時期や、苦しい局面も必ずあります。ただ、あとから振り返ったときに、「あの経験があったから今がある」と思えることも多いと感じています。
詩の中では「じぶん」から「自分」へ表記が変化しています。私なりの解釈ではありますが、少し柔らかい「じぶん」から、経験を通して一皮むけしっかりとした「自分」へと成長していくというふうに捉えています。
だからこそ、困難な状況に直面した時でも、逃げるのではなく、前向きに取り組んでいくことが大切です。乗り越えられたら、それが次のチャレンジへの自信となります。逆にたとえ乗り越えられなかったとしても、その経験はきっと自分の糧になる。いずれにしても、結果として自分自身の自信あるいは経験値が高まり、「ひと皮むけた『自分』」に繋がっていくのだと考えています。

同世代で同じ悩みを抱える人への貢献。海外挑戦に必要な柔軟性と、「自分」の意思を持つこと
―PROJECT anyに協賛を決めたきっかけは何だったのでしょうか
最初にPROJECT anyを知ったきっかけは、2022年の夏頃に糸井さんから声をかけて頂いたことでした。最初の印象は、「こんなに若いのに、しっかりしたお考えをお持ちだ」ということでした。昔の自分と比べても、その熱意や姿勢に心を動かされ、自然と応援したい気持ちになりました。
ちょうどその頃、長男が就職活動を行っており、今後の進路に悩む姿を見て、親としても考えることが多い時期でした。PROJECT anyは、一般的な人材育成の枠組みとは少し異なり、「キャリア」や「進路」などについて、型にはめず、各人の内面に眠る”何か”を引き出す場だと感じています。先述の『他人のものさし 自分のものさし それぞれ寸法が ちがうんだな』にも通じるところがありますが、このコミュニティは、内面に眠る「自分のものさし」を見つけ、「他人のものさし」も尊重しながら成長できる環境があると感じています。そして、その中でやわらかい「じぶん」が「自分」に飛躍していける場を提供頂いていると感じ、息子と同世代の悩んでいる若者に私ができる貢献として協賛を決めました。
特に海外で働きたいと感じている方には、柔軟性が重要だと言われますが、それだけでは不十分で、「自分」の意思を持つことが欠かせません。そうした考えが、エニーの理念と共鳴するところと感じております。
AI時代だからこそ、「自分の言葉」が武器になる
―AIの進化も進む中で、今後若い世代に必要になる力についてはどうお考えですか
AIは大変便利でこれから頻繁に活用され、スマートフォンのようにいわば仕事や生活を支えるインフラのひとつになっていくものと思いますが、一方で、文章力や表現力も重要性は高まっていくものと考えています。人を動かすのは、AIが作った整った文章ではなく、経験や思いが込められた「自分の言葉」だと思うからです。
私は古い世代なので、会社に入って文章を手書きで書く機会が数多くありました。上司に文章を直されることもしばしばでしたし、社会人になって数年経った頃、官庁に出向いたしましたが、他官庁と協議して統一の対外文章を作成するのに一言一句時間をかけて議論することもありました。でもその時に学んだことは、言葉一つで伝わり方は大きく変わるということです。助詞一つとっても、言葉のニュアンスが変わることがあります。
効率だけを考えると、無駄に見えるかもしれませんが、人を動かし、心を動かすのは、言葉の力だと思うのです。言葉にはこれまでのその人の経験や想いが乗っかっているということを、忘れないで頂きたいと思います。
若い世代へ——厳しい時こそ、夢を描いて挑戦してほしい
―最後に、エニー生や若い世代へのメッセージをお願いします
厳しい時こそ夢を描いて、失敗や変化を恐れずにチャレンジしてほしいと思います。
その経験は、きっと将来、皆さんの自信となり、豊かな経験となって、実力や人としての魅力を高める源になります。歳を重ねると、「やっぱりあの時挑戦しておけばよかったな」、「全然チャレンジしなかったな」、という想いが後悔として残りがちです。だからこそ、恐れることなく挑戦し、成功や失敗の経験を積み重ねていってほしいと思います。
社会人になると、堅苦しい言葉で言えば利害関係者(ステークホルダー)も増え、悩みも増えます。それまでは、人との関わりが家族、親戚、友人といった価値観が近しい人の集まりだったものが、上司、部下、同僚、取引先、株主、地域社会、政府などへと広がり、自分とは全く異なるものさしを持ったステークホルダーと関係を持つこともあります。
対人関係で悩む方が出てくるかもしれませんが、こういう時にこそ、『他人のものさし 自分のものさし それぞれ寸法が ちがうんだな』という心持ち一つで、気持ちも楽になるし、相手の気持ちや立場に立って考える柔軟性を持つこともできると思います。一度柔軟性を持ったならば、今までに見えてこなかったものが見え、新たな気づきや自らの成長の種を見つけることもあると思いますので、ぜひこの言葉を贈りたいと思います。




