Z世代の議論から見えた、社会課題を「自分事」にする方法~「なぜ?」を問い続ける力~
- OVER20&Company メンバー
- 6 日前
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「なぜ、自分より先の世代の課題に関心を持たなければならないのか?」。2025年8月29日(金)、未来の社会を担う若者たちが集い、オンライン上で熱い議論が交わされた。テーマは「自らの寿命を超えた社会課題にいかにして関心を持つか」。環境問題や少子高齢化など、すぐには答えの出ない壮大なテーマに対し、Z世代の論客たちはどう向き合うのか。
彼らの対話から見えてきたのは、単なる理想論ではない、現実的な課題認識と、未来への責任を引き受けるための具体的なアプローチだった。
※ディスカッションの様子を可能な限りそのまま公開しているため、事実と異なる発言がある場合がございますが、エニー生のリアルなディスカッションとしてお楽しみください
【参加者】
サトシさん(仮称):一橋大学経営管理研究科所属
ソウタさん(仮称):東京大学大学院 新領域創成学科修士1年。学部時代には複数社でのインターンとバレーボール部での主将などを経験。現在は大学で脳科学を研究をする傍ら、新しい視点と教養を届ける若者中心のコミュニティを運営。人間の認知機能、これからの資本主義社会と適切なテクノロジーの在り方などに関心がある。クワクしている;ハイ」、「AIの台頭により、就職難が近づいていると思う;ハイ」
モデレーター: 一橋大学卒業。PROJECT any運営
議論の出発点:なぜ私たちは「遠い未来」を考えられないのか
議論の冒頭、サトシさんは人間が本質的に長期的な課題に関心を持ちにくい理由を、2つの「障壁」から説明した。
サトシさん: 「一つは『認知的な障壁』です。未来は不確実で、具体的にイメージすることが難しい。もう一つは『社会構造的な障壁』。私たちの社会は、良くも悪くもこれまでの成功体験や価値観が“踏襲”されやすい。この2つが、私たちの視野を短期的なものに留めてしまう原因だと考えています」
この根源的な問いに対し、ソウタさんは「物語」の力で乗り越えられるのではないかと応じる。
ソウタさん: 「例えば、過去の歴史や宗教がそうであるように、私たちは『物語』を通して、時間や空間を超えた繋がりを感じることができます。自分が、壮大な歴史の一部であると認識することで、未来への責任感も芽生えるのではないでしょうか」
「自分事」にするための2つのアプローチ
議論は、「どうすれば社会課題を“自分事”として捉えられるか」という、より具体的な方法論へと移っていく。
空間軸の拡張:「自分」の範囲をどこまで広げるか
サトシさん: 「面白いデータがあって、『自分』という認識の範囲が広い人ほど、長期的な視点を持ちやすいという研究があるんです。例えば、自分のアイデンティティを『個人』だけでなく、『地域コミュニティの一員』や『組織の一員』として捉えられる人は、その共同体の存続、つまり未来を考えるようになる」
これは、所属する組織での役職の変化にも当てはまるという。平社員から課長、部長へと昇進するにつれて、考えるべき範囲は個人からチーム、部署へと広がり、それに伴って時間軸も長期化していく。
ソウタさん: 「まさにそうですね。企業で言えば、創業者の理念や、先人たちが築き上げてきた歴史に『恩恵を受けている』という意識が、未来への責任感に繋がる。自分もその歴史の一部として、次の世代に何かを残したい、と思えるかどうかが重要そうです」
時間軸の拡張:「物語」で過去と未来を繋ぐ
ソウタさん: 「ただ、現代はSNSなどの影響で、過激な物語や短期的な快楽(ドーパミン)が優先されがちです。昔から引き継がれてきた重厚な物語が、なかなか響きにくくなっている。そこで有効なのが、古い物語を『現代的に復興』させることではないでしょうか」
彼は、京都の老舗企業が伝統的な技術を活かしながら、現代のデザインやマーケティングを取り入れて成功している例を挙げる。過去の物語をそのまま語るのではなく、現代の文脈に合わせて再解釈し、新しい価値を付与することで、若い世代にもその魅力が伝わるのだ。
議論から見えた課題と、未来への展望
熱を帯びた議論の中で、ソウタさんは現代社会が抱える「分断」という課題を指摘する。
ソウタさん: 「狩猟採集民の社会では、コミュニティ全体で一つの物語を共有していました。しかし、文明が発達するにつれて、個人の自己実現が重視されるようになり、一人ひとりが持つ物語がバラバラになってしまった。この『物語の分断』が、社会全体で長期的な課題に取り組むことを難しくしているのかもしれません」
この課題に対し、サトシさんは「対話」の重要性を説く。
サトシさん: 「私たちは、無意識のうちに自分の経験というフィルターを通してしか物事を見ることができません。だからこそ、自分とは異なる視点を持つ他者との対話が不可欠です。異なる物語を持つ人々が対話することで、初めて社会全体の課題が見えてくる。その対話の場を作ることこそが、今求められているのではないでしょうか」
【おわりに】
今回のディスカッションは、「遠い未来」という壮大なテーマを、「自分」というミクロな視点と、「社会」というマクロな視点を行き来しながら解き明かす、知的な時間となった。
社会課題を自分事として捉えるためには、まず自分がどのような共同体に属し、どのような歴史の恩恵を受けているのかを知ること。そして、その上で、自分とは異なる物語を持つ他者と対話し、共通の未来を描こうと試みること。
彼らの議論は、答えのない問いに立ち向かうための明確な方法論を示してくれた。それは、ただ未来を憂うのではなく、過去から学び、他者と繋がりながら、自らの手で未来を創造していくという、力強い意志の表れだった。