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「生きる力」で繋がるユニークなコミュニティ

「研究者になるはずだったんです」。そう語るのは、今回お話を伺った松浦麻子さんだ。理系の大学院からキャリアをスタートさせ、シンクタンク、科学館、環境保全団体を経て、現在は若者の起業支援に情熱を注いでいる。一見、華々しくも見えるその経歴の裏には、大きな挫折と、人生のコンパスとなる言葉との出会いがあった。

なぜ彼女は、常に自身のあり方を問い続け、キャリアチェンジを恐れないのか。その原動力に迫るインタビューから見えてきたのは、不確実な時代を生きる私たちにとって、自分だけの道を見つけるためのヒントだった。


(個人エニーメイト、松浦麻子さん)
(個人エニーメイト、松浦麻子さん)

松浦麻子氏のプロフィール

東京大学大学院を卒業後、銀行系シンクタンクでコンサルタントとしてキャリアをスタート。その後、日本科学未来館での科学コミュニケーター、WWFジャパンでの環境教育担当を経て、現在はスタートアップ支援を行う大手外資系コンサルティングファームに勤務。多様な「教育」の現場で、社会と個人の成長に向き合い続けている。


―まずは、松浦さんのキャリアについてお伺いします。もともとは研究者を目指されていたとか

もともとは大学・大学院と理系で、そのまま研究者になるものだと漠然と思っていたのですが、大学院に進学してからは、研究が思うように進まなくなっていきました。修士1年の冬は、大学に行きたくなくなった時期もありましたし、修士2年になってからも思うような成果が出ずに悩んでいました。そんな時に研究室の教授に「一度社会に出て、それでも研究したかったら戻ってきなさい」と言われたことが、肩をたたかれたようで本当にショックで・・・。それまで勉強はそれなりにできていたので、「自分はバカだ」と、その時になって初めて知りました。

それで普通の就活生が就活を終えたタイミング、修士2年のお盆明けから就職活動を開始してご縁をいただいたのが銀行系のシンクタンクでした。


3.11という衝撃。「空論」から「実践」へ

―シンクタンクに入社されてからはどうでしたか?

挫折感を抱えたまま入社したので、大志があったわけではありません。言われたことはこなしましたが、「この会社で何をやりたい」といった目標はなく、ただ「石の上にも三年、次に五年、それでも続けられるなら十年」とだけ決めていました。


―大きな転換点があったとか

1年目から原子力発電所の安全性評価を担当しました。膨大なデータを統計処理し、新たな知見を導く仕事は大学院で学んだ手法に近く、面白かったのですが、2011年の東日本大震災で自分が評価していた原発が事故を起こしたことに大きなショックを受けました。

原発が津波に対する耐久性がないことはわかっていましたが、津波は来ない、「安全」という前提の上でしか安全性を評価していなかった自分の姿勢に気づかされました。同時に、原発に関心を持っていなかった人までが感情的になり世論を形成していく光景に恐怖を覚えました。このままではいけない、一人ひとりが自分の頭で考えて判断しなければ社会は壊れてしまうと危機感を持ったのです。


―その危機感が、次のキャリアに繋がったのですね

はい。「空論ではなく、もっと現場で、人に何かを伝える仕事がしたい」と思い、日本科学未来館に科学コミュニケーターとして転職しました。そこでは、一概には答えが出ない科学技術について、小中高生を対象にワークショップを企画していました。例えば、出生前診断は技術的には可能ですが、その結果をどう捉えるのか、原子力発電もコストは下がるけど事故が発生した時のリスクをどう捉えるのか、一概に答えが出ない科学技術に対してどう向き合うのかをテーマに働きました。

次にやりたいこととして、学校教育ではない領域で人育てに関わりたいと考えてWWFジャパンという環境保全団体に転職しました。日本科学未来館で働いていた答えのないテーマと同じですが、経済成長と環境のバランス、その中で事象をどう捉えてどう行動するのかを考えられる人を育てる活動に4年間携わりました。

ただ、寄付金が財源となる財団法人では活動の広がりに限界を感じ、次はビジネスの世界で人を育てようと決め、現在の会社に移りました。今は「起業家=新しい社会を創る人」を支援し、高校生や大学生に対して起業を目指す素養を付けていただくための仕事をしています。


(インタビューに答える松浦麻子さん)
(インタビューに答える松浦麻子さん)

研究を通じて見えた「本当の自分」

―スキルアップや年収ではなく、ご自身の問題意識を大切にしてキャリアチェンジしているのが印象的ですが、大切にしていたことはありますか?

自分のやりたいことってなに?課題に思っていることってなに?それが実現できるところってどこ?などひたすら書き出していました。転職エージェントからオファーをいただいた際も、これで本当に自分がやりたいことができるのかを問い続けていました。


―自分の中の軸がぶれていない印象です

院生時代に、研究がそこまで好きではなく、興味を持ったものしか続けられないというワガママな一面に気づけたことが大きかったです。

当時は研究が思うように進まなくて本当に悩み、修士2年になっていよいよドクターになるぞと頑張ったのですが、すごく苦しくて。そこで気づいたんですよね。知識欲はある。ただ、研究が好きなわけではなく理系職に憧れていただけなのだと。本当にやりたいことじゃないとのめりこめないし、続けられないんだって。


親からの精神的独立

―もがいている時は、自分自身と向き合うチャンスなのですね

同期や先輩の優秀さに挫折し、研究が思うように進まない自分を最初は親のせいにしていました。東大の大学院に進学したのも、半分は親の期待に応えるため、だから成果が出ないのだ、と「自分で選んだわけじゃないのに」と責任から逃れていたんです。

そんなとき、一回り年の離れた方から「人のせいにしている間は、それは自分の人生じゃないよ」と言われました。目からうろこでした。自分の人生なのに、自分で責任を取っていないんだと気づかされたんです。

そこから「自分の人生をどう歩くか」を真剣に考えるようになりました。結果として研究者には向いていないと認めざるを得ませんでしたが、研究にも正面から向き合うことができました。苦しい決断でしたが、「これは自分で選んだ結論だ」と腹をくくれたんです。


―その過程はとても苦しそうですね

ありのままの自分と向き合うことはとてもしんどいことです。できないことをたくさん認めないといけないですから。でも、だからこそ人生を豊かにするチャンスになると思います。私の場合は、松浦麻子という一人の人間として研究に向き合った結果、本当に関心のあることに対してでしか成果を出せないということに気づけ、その後のキャリア形成の軸が形成されたように思います。


1対1で向き合うことの価値。エニーは生きる力を共通言語としたユニークなコミュニティ

―これまでのキャリアを伺う中で、一貫して「教育」という軸があるように感じます。今回、個人エニーメイトに参画された理由も、その延長線上にあるのでしょうか?

はい。教育の難しいところですが、情報は1対1だとある程度の濃度を保って伝達することができますが、人数や媒体を介するほどこの濃度は薄まっていきます。そこでエニーが行う「1対1」で一人の若者と深く長く向き合える仕組みが面白いと思ったんです。実際にゲストとして今年2月に開催されたミートアップイベントに参加させていただき、エニー生の皆さんと交流した際に、ご自身がどうしていきたいのかを思索して発表している姿がとても印象的でした。今のありのままの自分を理解しようとしており、これがエニーの中でメンター制度などを通じて醸成されているものなのだと実感しました。彼らが自身と向き合い、社会に対して何を感じて、どうアプローチしていくのか。彼らの探索活動に、関われるのであれば逆にありがたいことだなと、参画しようと思いました。


(2025年2月に開催されたミートアップイベント内、エニー生の発表)
(2025年2月に開催されたミートアップイベント内、エニー生の発表)

―エニーのユニークさはどこにありますか?

フィロソフィーで繋がっている点です。例えば私たちが運営する起業家コミュニティは、起業を目指すもしくは起業できるスキルを身に着けた人たちによるコミュニティです。スキルや機能で領域が限定されています。エニーの場合は自分の興味関心はバラバラなのですが、「生きる」ということに対して必要な考え方を共通言語に持つコミュニティなのだと感じました。

課題をいかに見つけ、どうアプローチするか仮説を立て、実際にアクションを起こす。このプロセスを身につけることが、どんな分野でも生き抜く力になる。エニー生の皆さんは、まさにそれを実践している。だからこそ、私の経験が何か役に立つのではないか、一緒に面白いことができるのではないかと、すごくワクワクしています。


(2025年2月に開催されたミートアップイベント内、交流会の様子)
(2025年2月に開催されたミートアップイベント内、交流会の様子)

自分の人生、楽しんだもの勝ち

―最後に、エニー生へのメッセージをお願いします

自分の人生は自分でしか歩けません。そして、大学生や20代は、自分で歩くための考え方や自分自身を作っていくうえでとても重要です。そのお手伝いができるのであればさせてほしいなと思います。

社会ってそんなに悪いところじゃない、自分で歩けるようになったら楽しいよってことを伝えたいです。大変なことも楽しいこともこれから起きますが、全部楽しんだもの勝ちなので、その楽しむ方法をお手伝いできたら良いなと思います。





 
 
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